11月はこども家庭庁の「オレンジリボン・児童虐待防止推進キャンペーン」の実施月。県内の子ども相談センター(児童相談所)における児童虐待相談対応件数は昨年度、過去最多となった。ただこれらは氷山の一角だと考えられており、大人による子どもへの避けたい子育て「マルトリートメント」によって、こころや脳に悪影響を受けている子どももいる。全ての子どもが子どもらしく元気にすくすく育てるよう、社会全体で児童虐待やマルトリートメントの防止について考えていく必要がある。
◆昨年度の県内子ども相談センター 児童虐待相談対応件数2725件 過去最多 県、発生予防に注力
昨年度、県内5カ所にある県子ども相談センター(児童相談所)が対応した「児童虐待相談対応件数(速報値)」は、2725件(対前年比1・5%増)と過去最多となった。
相談内容は、言葉による脅しや無視、目の前で家族に暴力をふるうなどによる「心理的虐待」が、最も多い1427件と全体の52・4%を占め、「身体的虐待」が960件(35・2%)、「保護の怠慢・拒否(ネグレクト)」が300件(11・0%)となっている。
年齢別では「9~12歳未満」が538件、「6~9歳未満」が523件、「3~6歳未満」が495件と、被害を受ける年齢による大きな差はなかった。主な虐待者は「実母」が44・9%、「実父」が43・9%とほとんどを占めた。相談に至った経路としては「警察等」が最も多く、次いで「学校」や「市町村」など身近な相談窓口が並ぶ。
虐待相談への対応として、施設入所は48件、里親委託15件で、保護者等への面接指導が2549件と全体の93・5%を占めている。
県では毎年、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」について書かれたカードを県内全ての小中高校で配布し、子どもから直接SOSを出せることを伝えている。
さらには本年度、虐待の発生予防を目的に「マルトリ予防」(避けたい子育ての予防)をテーマに啓発活動を実施。また、全国的に生後間もない子どもの虐待死が起きていることから、妊娠・出産に不安を抱える妊産婦を伴走型で支援する「妊産婦等生活援助事業」を行い、児童虐待が起こらない社会の実現を目指していく。
◆ヤングケアラーを支援 講演や当事者の交流会開催へ
保護者の病気やネグレクトなどさまざまな事情で日常的に家事や家族の世話をする子どもを指す「ヤングケアラー」。国による中高生への実態調査が2020年12月~21年1月に初めて実施され、調査結果によると「世話している家族がいる」と答えた中学生が5・7%、高校生が4・1%に上った。家事や家族の世話に追われることにより、学業や進学、友人関係などへの影響が懸念されている。
そこで県は、ヤングケアラーの問題について広く知ってもらおうと、来月から動画投稿サイト「YouTube」上で、研修会「ヤングケアラー当事者の声からアプローチや支援方法を学ぶ」を行う。
講師は元ヤングケアラーで兵庫県尼崎市教育委員会スクールソーシャルワーカーの黒光さおり氏。今年8月に岐阜市内で行われた研修会の様子をおよそ60分に編集して配信する。
参加無料。公開期間は11月1日から12月27日までで、視聴には事前申し込みが必要。専用フォームから申し込むと、受講者専用ページのURLが送付され、リンク先から研修動画と資料を確認することができる。申し込みの締め切りは12月26日午後5時。
家事などに追われる子どもに向けたオンラインサロンを知らせるポスター
県ではまた、家族のお手伝いなどに追われる子どもたちに向けたサポートにも注力。困りごとを聞いたり、同じような悩みを持つ仲間同士の交流の場を持ってもらったりしようとビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」上で「わたしの時間!オンラインサロン」を行っている。
日時は11月8日、12月13、20日、1月10日、2月14日でいずれも午後8時から。毎回ヤングケアラーの問題に詳しい専門家の進行で思いを共有していく。参加無料、入退場自由で聞くだけ、チャットだけの参加も可能。
研修会とオンラインサロンは、それぞれの専用フォームから申し込む。問い合わせは県子ども家庭課、電話058(272)1111(内線3562)。
◇福井大学子どものこころの発達研究センター教授 友田明美氏インタビュー
◆避けたい子育て・マルトリートメント 「マルトリはSOS」 まずは親をねぎらう大切さ語る
周りの大人による避けたい子育てを指す「マルトリートメント」。この問題を長年研究している医師で福井大学子どものこころの発達研究センター教授の友田明美氏にマルトリートメントを受けることによる影響や、防止するためにできることを伺った。
-マルトリートメントとは。
マルは「悪い」という意味を持つ言葉で、私は「避けたい子育て」と訳し、少し長いので「マルトリ」と略しています。
児童虐待と聞くと、ほとんどの方がどこか自分とは関係のない、遠い世界の話だと思うでしょう。マルトリは保育士や先生なども含めた全ての大人から子どもに対する避けたい関わりを指し、身体的な暴力だけでなく、怒鳴る、他の子と過剰に比べる、子どもに夫婦喧嘩を見聞きさせるなども含まれます。
-マルトリを受けるとどんな影響がありますか。
子どもの頃にマルトリを受けた人の脳を研究したのですが、暴言と体罰により場所は違えど脳が萎縮したり変形したりしたケースもありました。
結果を見たとき、「脳にまで影響が出るのか」と大変驚きました。中でも性的なマルトリを受けた人は深刻です。こころの病気自体は発症していなくても、生きづらさを抱えたり、フラッシュバックに悩んだり。身体的な暴力を受けていなくてもマルトリによってこころだけでなく脳まで影響を受け、それが大人になっても続くのです。決して軽視してはいけません。
-マルトリを防止するためにできることは。
少子高齢化や核家族化などが進んだことで、多くの親は「自分で完璧な子育てをしなければ」というプレッシャーを受けています。そのストレスから誰でもマルトリをしてしまう可能性があると考えています。
ですので、マルトリをした親に対して犯罪者扱いをするようなトーンで非難する時代ではありません。「あなた虐待していますよね」と言うと、親は絶対にこころを開きません。責めることよりも、マルトリは子育てが困難な家庭からのSOSとして捉えるべき。マルトリを受けながら育って親になった方は子どもに対してもマルトリをしてしまう傾向にあり、そういった方こそ周囲を頼ることが苦手です。SOSに周囲が気付いて、まずは親の話を聞いてその情報をいろいろな機関につないでいくことが大切です。
そこで提唱したいのが血縁関係だけでなく地域みんなで子どもを育てる「とも育て」です。8月、南太平洋の島国・サモアに行ってきました。人口の半分が18歳未満と言われるほど子どもがたくさんいる国なのですが、親は外貨を稼ぎに海外に出るのが当たり前で、子どもは地域全体でみていました。まさに「とも育て」ですね。サモアで実現されていて驚きました。
もちろん、個人情報への考え方もありますし、コロナ禍以降は他人の家に上がりにくい雰囲気も生まれましたから今の日本でサモアのようにできるとは思いません。ただ、視点を変えることは大切。この「とも育て」は、少子化に歯止めをかける鍵になるものだと思います。
「虐待をやめよう」「マルトリはだめ」「親が悪い」と口にするのは簡単です。それよりもまずは子育て中の親をねぎらい、親を「ほめ育て」しませんか。たった一言のねぎらいの言葉、褒め言葉で救われる方は多くいます。子どもの頃に褒められたことがなかったがゆえ、子どもをどう褒めていいのかわからないと相談にくる方もいますので、褒めることは大切。そして「ほめ育て」の連鎖を作っていけるといいですね。
◆11月にウェブでマルトリ講演会 講師は友田氏
県では11月1日から同30日までの一カ月間、動画投稿サイト「YouTube」上でオレンジリボン児童虐待防止講演会「知っていますか?マルトリートメント~子どもの脳とこころを傷つけない子育て~」を公開する。
講師は友田明美氏。参加無料で事前申し込みが必要。参加希望者は専用フォームから申し込む。
毎年11月は内閣府などが主唱する「女性に対する暴力をなくす運動」期間。本年度は12日から25日が運動期間で、全国各地の観光名所等がシンボルカラーの紫色にライトアップされるなど、さまざまな啓発活動が行われる。今回のはぐくみのわでは、親密な関係にある人から振るわれる暴力「ドメスティック・バイオレンス」(DV)や性暴力について考えていく。
◇身体的暴力:なぐる、ける
◇精神的暴力:大声でどなる、無視をする
◇性的暴力:避妊に協力しない
◇経済的暴力:生活費を渡さない
◇社会的暴力:友人付き合いを制限
◇子どもを巻き込んだ暴力:DVを見せる
◆配偶者暴力相談支援センター 精神的暴力もDV
夫婦や恋人などの親密な関係にある人から振るわれる暴力「ドメスティック・バイオレンス」(DV)。男性から女性への殴る、蹴るなどの暴力行為がイメージされがちだが、女性から男性への暴力行為もDVになる。
身体的暴力だけでなく、大声でののしる、無視をするなどの精神的暴力、セックスを強要するなどの性的暴力、生活費を渡さない、支出を細かくチェックする、仕事を辞めさせるなどの経済的暴力、実家や友人との付き合いを制限するなどの社会的暴力、そして子どもを巻き込んだ暴力(DVを見せる)も全てDVに該当する。
これまでは被害者への接近などを禁止する裁判所の保護命令は、身体的暴力と「生命や身体に対する脅迫」があった場合にのみ限られていたが、改正DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律)の施行により、今年4月以降は、言葉や態度で相手を追い詰める「精神的DV」も対象になった。
岐阜県では、配偶者暴力相談支援センターを女性相談支援センターや岐阜地域福祉事務所、各県事務所福祉課に設置。DV被害に悩む方の気持ちを受け止め、問題解決につなげるため広く相談を受け付けている。
センターの担当者は「最近は、身体的なDVよりも精神的、経済的なDVを理由に相談してくる人が多い印象。つらい思いをしているのであれば一人で悩まず、まずは声に出してほしい」と相談を呼び掛けている。
◆県女性相談支援センター 女性の悩みに寄り添う
配偶者や同居する家族からの暴力や近隣住民とのトラブル、病気や生活苦についての悩みなど、女性からのさまざまな相談を受け付けている県女性相談支援センター。センターでは必要に応じて他機関につないだり、保護が必要と認められる場合は一時保護を行ったりするなど、新たな一歩を踏み出すための支援も行っている。
今年4月の困難な問題を抱える女性への支援に関する法律の施行に伴い、これまで以上に支援にも力をいれていくため名称に「支援」を加えた。
前身の女性相談センターでは昨年度3044件(対前年度比5・8%減)の相談を受け付けた。このうち近隣とのトラブルや職場内や友人との人間関係について等の相談件数が1108件で全体の36・4%を占め、続いて、DV被害相談が1106件で36・3%を占めた。こうした相談のうち、60件について、一時保護を行った。
センターでは「相談だけでなく今年からはより一層、支援にも力を入れ、状況に応じてさまざまな機関につなげていきたい」としている。
【配偶者暴力相談支援センター】
・県女性相談支援センターおよび
・岐阜地域福祉事務所 電話058-272-1929
・西濃県事務所福祉課 電話0584-73-1111
・揖斐県事務所福祉課 電話0585-23-1111
・中濃県事務所福祉課 電話0575-33-4011
・可茂県事務所福祉課 電話0574-25-3111
・東濃県事務所福祉課 電話0572-23-1111
・恵那県事務所福祉課 電話0573-26-1111
・飛騨県事務所福祉課 電話0577-36-2531
電話・面接相談時間
平日午前9時~午後5時(年末年始を除く)
【県女性相談支援センター】
電話058-213-2131
相談時間 午前9時~深夜0時(午後6時以降、土日祝日はDVに関する相談のみ)
※平日に面接相談あり。予約制。
◆ぎふ性暴力被害者支援センター 性別、時期問わず相談を
性暴力被害者の相談に24時間体制で対応している「ぎふ性暴力被害者支援センター」。産婦人科医療や警察などにもすぐにつなげられる体制を整え、ワンストップで総合的な支援を提供する拠点となっている。相談方法は電話やメール、対面、コミュニケーションアプリ「LINE(ライン)」とさまざま。匿名での相談もできる。
相談に際し、被害に遭った時期や性別は問わない。近年、男性や男児に向けた性暴力についてニュース等で扱われる機会が増えてきたことを受け、同センターでも相談しやすい環境づくりに注力。リーフレットや電話番号が書かれたカードを今年6月、これまでのピンクベースからグリーンに変更して手に取りやすくした。第2、第4火曜日には男性相談員を配置している。
◇支援員・野村さんインタビュー 「話すことで心の整理に」
ぎふ性暴力被害者支援センターの支援員の野村みどりさんに相談者への思いを伺った。
◇ ◆
-どんな相談が多いですか。
母親から、「我が子が被害に遭ってしまった」と相談してくるケースは珍しくありません。話を伺って一緒に警察へ行くこともありますし、警察への相談後にこちらに連絡されるケースもあります。電話口であっても、不安な様子が伝わってきます。まずは落ち着いていただけるよう、共感しながら話を聞くように心掛けています。
-LINEでの相談については。
LINE相談は若い人からが多く、必要に応じて年齢、お住まいの地域などを伺います。しかし、全ての項目にお答えいただく必要はございません。
顔はもちろん、声のトーンすらわからないため、電話相談よりも個人的にはハードルは高く、LINEで数回やり取りをするだけで全容を把握することは簡単なことではありません。これをきっかけに電話でつながれる方もいますが、数回のやり取りで止まることもあります。それでも困っている事に対して、相談しやすいツールとしてLINE相談を行い、つながってもらえることは大きなことだと思います。
-相談者に対する思いは。
相談するだけで元気になれるケースばかりではありませんが、話すことで心の整理ができることはあるでしょう。聞くだけで力になれることはあるのではという思いでいます。
随分前に受けた被害で声を上げることができず、長年悩んでいる方もいらっしゃるでしょう。警察に届けるほどでないというお考えでも、悩んでいるのであれば、まずは声を上げていただきたいです。
【ぎふ性暴力被害者支援センター】
#8891
(全国共通短縮番号・通話無料)
電話058-215-8349
※24時間対応