パパやママから大好評の「無藤先生に聞いてみよう」。今回は、幼稚園、保育園、認定こども園に向けた共通の指針「10の姿」(健康な心と体、自立心、協同性、道徳性・規範意識の芽生え、社会生活との関わり、思考力の芽生え、自然との関わり・生命尊重、数量・図形、文字等への関心・感覚、言葉による伝え合い、豊かな感性と表現)について考えていきます。
数年前からですが、幼稚園・保育園・認定こども園では、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿として10個に整理されたものを使い、子どもの育ちを捉えるようになりました。一人一人の個性的な育ちを小学校に向けて、ある程度共通にして把握するのですが、いわゆるテストなどで一律の基準で捉えるのではなく、一人毎の育ちの独自さを大事にしつつ、そこで見られる長い意味で育っていく様子を保育の中で具体的に見ていくのです。そこで特に年長児などにおいて、やや不足している体験があるかもしれないとなれば、それを補うことも可能になります。
10の姿
1 健康な心と体
2 自立心
3 協同性
4 道徳性・規範意識の芽生え
5 社会生活と関わり
6 思考力の芽生え
7 自然との関わり・生命尊重
8 数量・図形、文字等への関心・感覚
9 言葉による伝え合い
10 豊かな感性と表現
この10の姿の中心には「自立心」の育ちがあります。幼児期に子どもは自立に向けて育っていき、それを家庭と協力しながら、各園は保育を進めているからです。そこには、「身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる」と保育指針などに規定してあります。当然、これは完成形を指しているのではありません。自立は大人になっていく長い間の課題ですが、でも幼児なりの自立の姿があるはずです。それは単に生活習慣があれこれ自分でできるようになることに止まりません。自覚し、考え工夫し、やり遂げようとすることを大事にします。結果というより、自立していこうとする子どもの姿勢を育てようとしています。そうであってこそ、その後も続けて育っていくようになるからですし、その姿勢があって、小学校教育でしっかりと学べるようになるからです。
そしてさらに、知的な面(思考力や数量・文字や言葉、自然との関わり)、社会情緒的な面(協同、道徳性やルール、社会での生活)、身体面(健康)、そして表現活動へと広がっていきます。そのどこにおいても、まず体験すること、感覚や感性が育ち、積極的に関わろうとする姿勢が生まれること、そして工夫をすることが強調されています。例えば、数量のことにしても、これは算数の基盤として、数や量についての関心やセンスが育つことが重要なのだという知見に基づいています。まず実物を使って数えたり、量を比較したりする活動がたくさんあって、小学校での筆算の導入へとつながっていくのです。
Q スマホやテレビに依存せず、他の遊びをさせるにはどうしたらいいですか?
A これは現代のどの親にもあるような悩みです。テレビもそしてそれ以上にスマホ・パソコンは子どもに(そして大人にも)魅力的なゲームやらアプリやら番組に満ちていますからね。一度始めるときりがないかもしれません。大人でも困りますが、小さい子どもなら勉強に差し支える以前に、発達に必要な体験ができなくなってしまうかもしれません。
ポイントは子どもの成長のために必要な日々の体験は何だろう、何を最小限大事にしてやってほしいかを親として考え直し、その遊びや生活をちゃんとやれる時間を確保することです。0~1歳ですと確かにスマホなど一切触れない方がよいと指摘する小児科医は増えてきています。そうかもしれません。それ以上の年齢になったときに、必ずしもゼロでなくてもよいと思いますが。ただ、他の必要な活動ができなくなると困ります。幼児でしたら、運動する、絵本を読んでもらう、絵やその他の造形をする、友達と遊ぶ、親子で会話したり遊んだりする、ゆったりと食事をする、よく寝る、などなど大事ですね。それが邪魔されていないでしょうか。あまりに時間が少なくはないでしょうか。一応やるけれど楽しそうなのでしょうか。集中してやっていますか。まずそういったことが確保されることです。時々はそういう遊びなどを親が一緒に楽しむのもよいでしょう。休みの日などに親子で近所を延々と散歩して花を探すなど、運動でもあり、その習慣作りにもなります。
無藤 隆 ( むとう たかし ) 先生 白梅学園大学名誉教授
【 経歴 】
東京大学教育学部卒業、東京大学教育学研究科博士課程中退、お茶の水女子大学教授、白梅学園大学学長・教授などを経て現職。日本発達心理学会理事長、文部科学省中央教育審議会委員、内閣府子ども・子育て会議会長などを経て、国立教育政策研究所上級フェロー、保育教諭養成課程研究会理事長などを務める。
【 主な著書 】
「幼児教育のデザイン」(東京大学出版会)、「3法令ガイドブック」(共著、フレーベル館)、「新しい教育課程におけるアクティブな学びと教師力・学校力」(図書文化)、「心理学」(共著、有斐閣)、その他。